「美術市場」公式カタログを市内各所に設置していただいております。
まだ中身を見ていない人へ、掲載の<美術に向き合うとき>全文です。
美術市場への思いが少しでも届きますように。
<美術に向き合うとき>
私たちが、美術と真剣に向き合うのはどんなときだろうか。
美術館の来館者が美術と真剣勝負をする場は、展示場ではなくグッズ売り場だとよく言われる。
展覧会を観た感動や心に残った作品を、記念にまたは思い出として何か一つでも手許に持っていたい。
この感動を何らかの「もの」として留めたいという思いから、絵葉書一枚選ぶにしても、あれこれ悩む場がそこなのである。
まさにグッズ売り場は、美的な「もの」を直に手にする入口であり、美術コレクターへつながるゲートであろう。
花巻市東和町土沢は画家・萬鉄五郎の生まれ育った土地であり、彼を顕彰する萬鉄五郎記念美術館のある街として、美術館と地元商店が手を携え美的興味をかき立てる試みを重ねてきた。
「アートの歩道実験」や町全体が現代美術で溢れかえった「街かど美術館」、さらにはアートとクラフトの手作り美術品を販売する「アートクラフトフェア」を開催して、かれこれ15年になる。
美術に出会える街《土沢》をスローガンに、鑑賞するだけでなく美術品を手許に置き飾るという豊かな生活空間の創造を願って仕掛けてきたプロジェクトである。
昨年から新たに「アートクラフトフェア」に加わったのが『美術市場』である。
地域を問わず現代美術家の作品を一堂に持ち寄り、販売する場の出現である。
美の鑑賞から美を愛でる視点まで、というコンセプトである。
門前町よろしく美術館門前町構想とでも呼ぼうか、「美術の街」実現に着実に歩みを進めている。
古来より日本家屋には床の間を設え、掛軸をかけて美を愛でる習慣があった。
本来、私たちには美とともに生活する血が流れている。
それは今なお地下水脈のように脈々と息づく。
しからば現代人に適った美を愛でる作法があってもいい。
ある老舗蕎麦屋の床の間には、現代美術の抽象作品が飾られ、その一点だけで古風な和室がモダンな空間に生まれ変わっているのに感動した記憶がある。
無論、飾られた作品の価値云々、値段の高低ではない。
自ら求めた美術品を生活空間に飾って愛でる。
絵や彫刻が置かれた瞬間に部屋が一変する。
今までとは違った知的で素敵な空間が出現する。
生活の中にアートを何気なくとり入れる。
そんな暮らしをおくる人の目に映る景色は、どう見えているのだろうか。
少なくとも、美を意識する以前とはちがった風景として映っていることは間違いない。
なぜなら、「もの」を見る視点がすでに違っているのだから。
2017年9月吉日 主催者
「美術市場」公式カタログより